火災出動時の安全管理

消防団は、地域住民の生金、身体及び財産を災害から守るという任務を遂行するため、災害現場に出動する。
  災害現場では、危険要素が大量にある環境下で消防活動を実施しなげればならない。
しかも、危険性や状況変化は著しく、安全限界ぎりぎりの線を行動限界としている実状である。
また、ぎりぎりの線が具体的にどこなのか、その見極めが極めて困難であるため、指揮者も団員も常に安全に対する配慮と確認をしながら任務を達成しなげれぱならない。
このように消防における安全管理とは、危険性を伴う任務の遂行を前提とした消防活動を実施するにあたり、
事故の絶無を期するため、事故要因を合理的に徐去するための一連の安全対策をいう。
言い換えれぱ、「安全管理は、それ自体が目的でなく、任務遂行と両立の関係にあり、さらには任務遂行を前提とする積極的行動対策である。」と定義づげられる。
 災害は当然のことながら、その都度様相を一変させる。1件の火災であっても時間の経過により危険度は増大するし、現場での行動そのものも障害される。
 また、緊張と興奮につつまれた中での煙や熱との戦いであり、体力的、精神的に疲労の度合が大きく、冷静な思考力を持続し、安全を確保しつつ任務を完遂することは容易ではない。
 指揮者の命令のもと、果敢な消防活動を展開しながら、団員が相互に安全を確保しなくてはならないことを、
深く目覚しなげれぱならない。
 以下、火災現場における留意事項を具体的に掲げるので、活動時の参考とされたい。


1 出動時の留意事項   出動は・原則として防火衣、防火帽、ゴム長靴とし、分団器具庫へ参集し、消防車で出動する。
なお、直接現場へ自家用車等で出動する場合も、この服装に準ずるものとする。
車庫から出動するときは、誘導員をだし警笛や赤旗等により歩行者や一般車両に注意を喚起し避譲を確認する。
消防車運行上の
留意事項
ア、赤信号の交差点通過時には、原則として交差点に進入する直前において一時停止する。なお、
  信号機の無い交差点、T字路、一旦停止場所等においても同様とする。

イ、サイレンを鳴らしていても、他の車両は、直ちに避譲しないことが多いため、
  優先通行権を過信してはならない。

ウ、一方通行を逆進入する場合は、徐行に近い車両の速度とする。

エ、高さ・重量制限等のあるところは、自隊の車両を確認して通行する。

オ、拡声機等を積極的に活用し、車両や歩行者に注意を喚起する。
   特に避譲車の陰や路地等から飛びだす車両や歩行者に注意する。

力、火や煙が見えると、それに気をとられ、注意力が欠落し易いので、運転者はもちろん
      全員で前方を注視し進行する。

キ、出動時は、他の隊も各方面から出動してくるので、特に交差点やT字路では、
      消防車同士の出会い頭の衝突にも注意する。
2 水利部署時の留意事項 (1)水利部署時は、吸水活動、ホース延長、資機材搬送等の行動が競合し、
  衝突する危険があるので、他の団員の行動に注意する。

(2)消火栓、貯水糟の蓋は、転落防止のため吸管を伸長してから開放し、大箱ネジ回しは、
    吸管離脱まで抜かないこと。

(3)吸管伸長時は、吸管のはね返りやつまづきに注意し、
  消火栓等に結合したら必ず吸管の緊着状態を確認する。

(4)消火栓、貯水糟、池等の水利に通行人などが転落する危険性のあるときは、
  ロープ等で表示する。

(5)塀越し等の水利に部署するときは、梯子等を使い2名以上の団員が協力して行う。

(6)河川等転落危険のある水利は、ロープ等で身体を確保して吸管投入等の作業を行う。

(7)積雪・寒冷時は、滑り転倒に注意し、重心を低くし小股で歩くようにして作業を行う。
3 ホース延長時の留意事項 (1)ホースカー下車は、後方を確認してから行い、ホースカー下車後は、
  速やかにホースカーレールを収納する。

(2)ホースカーのえい行は、前方、左右、足元に注意し、ブレーキ操作のできる態勢で行う。

(3)ホースブリッジを使用するときは、他の交通に注意して2名以上で行い1名は交通整理を行う。

(4)手ぴろめ廷長時は、結合金具、筒先の落下やホースバンド、ホースのたれ下がりに注意する。

(5)軒下等は落下物等の危険があるので、火災建物と平行とならないよう延長する。

(6)塀等を乗り越え延長するときは、積載の梯子等を活用する。

(7)軌道下のホース溝を使用し延長するときは、上下線にそれぞれ監視員を置き、安全を碇認して行う。
4 送水時の留意事項 (1)機関員は、筒先部署までに時間を要する場合又は筒先位置が確認できないときは、
      「放水始め」の伝令を待って送水する。

(2)予備送水は、筒先位置が碇認できる場合とし、いつでも停水できる態勢で送水する。

(3)見通しのよい場所でも、梯子等を利用し高所ヘホースを延長しているときは
    筒先員の放水態勢を完了してから送水する。

(4)ホース結合状況を確認して余裕ホースをとり、放口は除々に開放する。
5 屋内進入蒔の留意事項 (1)進入前に上部を確認し、瓦等の落下し易い物があるときは、周囲の消防団員等に注意を促し、
     とび口やストレート注水で排除してから進入する。

(2)送水前の筒先進入は、内部進入し過ぎないようにする。また、送水前の筒先は放置しない。

(3)階段、敷居、段差等でつまづき、踏みはずしに注意し、足元を確認しながら進入する。
     特に夜間は照明器具を活用する。

(4)延長ホースを踏み又はつまづき、転倒したり捻控したりするので、ホースは踏まない。

(5)工場内や地下室等は、漏油や放水の水で滑り易いので小股で憤重に歩く。

(6)石造、レンガ造の建物は、構造材に鉄筋等が使われていないため、一部が崩れると、
    未燃部分まで一挙に倒壌する危険があるので不用意にに進入しない。

(7)木造、防火造の店舗等は、外観上は堅固に見えるが、内部の柱や木ずりが燃焼すると
    一挙に倒壌する危険がある      ので、内部の燃焼状況に配意し、確認した後に進入する。

(8)染色、皮革、メッキ工場等には、各種薬品糟があるので、不用意に進入しない。
6 高所進入時の留意事項 (1)積載梯子を架ていする位置は、平担でかつ堅固な場所を選定する。

(2)梯子の架てい角度は75度とし、窓等の開口部に架ていするときは、主かんを窓伜、
  柱に寄せ横振れ等を防止する。

(3)梯子を登降するときは、梯子を確保するか、先端をロープ等で固定する。

(4)梯子上で放水や破壊作業をする時は、命綱で身体を確保し、作業姿勢を安定させる。

(5)他隊で架ていした梯子は無断で移動しない。

(6)窓等の開口部から進入するときは、窓枠や足場の強度を確かめてから進入する。

(7)屋外から窓等を開放するときは、側方に位置し徐々に行う。

(8)スレート屋根や塩化ビニール等の屋根又はアーケード上でやむなく活動ナるときは、
    厚板や梯子等で足場を確保するほか梁又はさん(ビス止め部分)の上を歩くようにする。
7 筒先部署での留意事項 (1)モルタル壁体やパラペット等は、火災初期から中期でも倒壊の危険があるので、
  倒壊が予想される場合は、ロープ等で危険区域を設定し、立入.リを禁止する。

(2)木造、防火造建物は、床抜けの危険があるので、部屋の隅や窓際等で行動する。
     必要により梯子等で足場を確保する。

(3)屋根上で注水するときは、ホースを棟上で蛇行させてホースのづれ、転落を防止する。
     また、積雪、凍結している屋根には登らない。

(4)柱、梁等に鉄骨材を使用している建物は、熱に弱く変形するので注意する。

(5)倉庫や工場等の収容物の集積場所では、荷崩れが発生し易いので、安全な距離をとる。
8 注水活動時の留意事項 (1)筒先の開閉は徐々に行い、反動力による転倒を防止する。筒先の保持は、
  できるだけ2人以上で担当し安全を確保する。

(2)筒先を離すと危険である。高圧注水で反動力に耐えられないときは、
  壁体等の工作物で身体を確保したり噴霧注水とする。
  やむを得ないときはシャットとし、機関員に伝え圧力を下げさせる。

(3)注水するときは、吹き返し危険を避るため開口部の正面を避げ、姿勢を低くし側方から行う。

(4)熱せられた壁体やシャッターに注水した水が、熱気・熱湯になりはね返える危険があるので、
    注水は噴霧等を適便用いて行う。

(5)染色、皮革、メッキエ場等にある各種薬品糟、焼き入れ炉等にストレート注水は行わない。

(6)防火造建物のモルタルの亀裂、ふくらみに注意し、必要により行動を規制する。

(7)神社仏閣等の建物は、庇部分が長く出ているため屋根材が回廊部分に落下し易いので、
    回廊部分の通行や部署は避ける。
9 破壌作業時の留意事項 (1)開口部を設定する場合は、内部進入している隊と連絡をとってから行う。

(2)ガラスを破壊するときは、とび口等を活用し上部から徐々に破壊する。
  窓枠のガラス片は完全に除去する。

(3)高所で破壊をするときは、命綱で身体を確保する。破壊物は、落下させない措置をとり、
    落下危険周囲にはロープ等で明示し、団員等の進入を規制する。

(4)トタン板の剥離作秦は、とび口等を活用し、手足等の切創等に注意し実施する。

(5)大ハンマ、オノ、とび口等を使用するときは、周囲の安全を確認してから行う。
10 爆発・危険物に対する対応 (1)可燃性ガス等 ア、部署は、風上、風横とし、原則として火災警戒区域外とする。
   なお、ガス滞留のおそれがある下水溝、マンホール及び覆工板上等は避け、
   できるだげ蓋等を外して開放する。

イ、ガス滞留地域内においては、火花を発する資機材の使用を避け、
   噴霧注水によりガスの拡散を図る。

ウ、アセチレン・エチレンボンベ等が加熱されると、分解爆発の危険があるので、
   冷却放水に際しては堅固な工作物等を楯にして行う。

エ、醸素製造工場又は酸素ボンベが多量にある場合は、
   急激に延焼拡大するので不用意に進入しない。
(2)危険物等 ア、エーテル、二硫化炭素、ガソリン、アルコール等の危険物は、急激に廷焼拡大するので
     不用意な接近・進入はしない。

イ、ニトログリセリン、硝火綿、ピクリン酸は、加熱、衝撃により爆発危険があるので、
   安全距離をとり冷却放水をする。

ウ、金属ナトリウム、金属カリウム、カーバイト等の禁水性物質は、注水により可燃性ガスが発生し
      爆発的に燃焼拡大するので、適合消火剤により消火する。

エ、燃焼中のマグネシュウム粉、アルミニュウム粉等の金属粉または金属切削屑に注水すると
      爆発的に燃焼するので、注水は絶対に避ける。

オ、木粉、澱粉、小麦粉が収容されている対象物は、粉じん爆発の危険があるので、
      開口部の正面を避け噴霧注水とする。
11 感電防止 (1)特別高圧(7000V以上)又は、高圧(直流750V、交流600V以上)の発・変電施設の火災は、
    原則として事業所の電気技衛者の停電処置を待って行う。

(2)変電所において一時的な内容不明の停電のとき、強行送電される場合があるので、
    施設や送電線に不用意に近づかない。

(3)通電中の高圧電線や柱上変圧器に延焼阻止上等、やむを得ず注水するときは、噴霧注水とする。

(4)活動中に電気ショックを感じたときには、停水するか姿勢を低くし筒先のホース結合部を接地する。

(5)変電室が浸水している場合は、停電処置を確認してから進入する。
11 残火処理 (1〉疲労や緊張弛緩から注意力が散漫になるので、適宜交替や作業分担を行って、
     疲労の軽減を図り注意力の持続を図る。

(2)屋根等の高所で活動するときは、下方及びその周辺の活動を規制する。

(3)モルタル亀裂・ふくらみ等や柱等の焼け状況から崩落のおそれがある場合は、強制的に落下させるか
    ロープ等により立ち入り禁止措置をとる。

(4)放水した水が凍結し、滑り易いときは姿勢を低くし小股で慎重に歩く。

(5)とび口等で作業を行う場合は周囲に作業スペースをとるなど二次災害を起さないよう留意する。
13 引揚げ時の留意事項 (1)現場で使用した資機材を撤収し、走行中落下しないよう確実に積載する。

(2)疲労等から走行中に信号の見落とし等のないよう、要所要所で呼称による確認を行うなど
  注意力の持続に努める。

(3)帰隊後は直ちに資機材の積み替えを行うとともに残水を排除し、
  放・吸口、ドレンコック等を確実に閉鎖するなど次の出動に備える。